眠りに着く前のささやかなスピリチュアルタイム

とても心地よくて不思議な世界観漂う小説を読みました。それは兼ねてからファンでもある女性作家が手掛けたものでした。いつも新しい物語に出会う度に今まで感じた事のない感覚を味わってきたように思います。
昨晩寝る前に布団の中で読んだ本はこの作家が手掛けた短編作品が幾つか収められたもので、どの物語にもこの世に生きる者とあの世に行ってしまった者を結び付けるエピソードが込められていました。初めは幽霊をイメージしてしまい「夜眠れなくなってしまったらどうしよう」という不安にさいなまれましたが、読み進めてゆくうちにそんな気持ちは全く抱かないことを悟ったのでした。
大切な人を失ったがために気が付かないうちに心に深い闇を持つようになった主人公、憎しみを抱いていたにも関わらず死によって気付かされた思いなど、様々な形で記憶や心の根底にある他者との関係が浮き彫りになる作品達はそっと私の中に入ってきて、切なくも優しい余韻を与えてくれました。死に直面することによって悲しさの許容範囲が分からなくなってしまい何事もなかったかのように振る舞う人々のやるせなさは、小説の中ではまるで丸くてフワフワして柔らかい羽根布団のように感じました。しかし当事者達にとっては、ひどく尖ったナイフのような悲しみであることを垣間見たのでした。そして死と生が隣り合う物語達はスピリチュアルな世界に一歩踏み入れたかのような摩訶不思議な時間を与えてくれました。時にはこんな夜があってもいいと感じています。